飲み屋

 私の家の近くには、「くりちゃん」という飲み屋がある。

 くりちゃん。もうこれだけで一部の人の心をがっしりと掴むに余りあるだろう。カタカナにするとさらにグッと来るものがある。クリちゃん。この店の看板が公道にせり出しているのは倫理的に問題があるような気さえしてくる。だがしかし、あえてもう一度言おう。クリちゃん。

 いくら栗の付く場所にあるからとはいえ、なんかもっとネーミングのしようがあるのではないだろうか。店主は店を出してからその意味に気づいたのかもしれない。いや、今でも気づいていない恐れすらある。もしかすると、確信犯的に名前を付けたのではないかという疑念さえ湧いてくる。様々なバックグラウンドを想像させる店、クリちゃん。

 ところで、この店、夜に前を通ると意外に繁盛しているようで、男性の歌声などが聞こえてくる。しかし、店のたたずまいはプレハブに毛が生えたような感じで、崩れそうな危うささえ感じさせられる。

 男に人気のクリちゃん。毛の生えたクリちゃん。今にも朽ち果てそうなクリちゃん。

 妄想をかきたてられる冬の夜。一番朽ち果てそうなのは私の脳みそであるのかもしれない。