きのこ

 池袋駅構内を歩いていた。

 目の前から、小汚いドレッドヘア+ひげのおっさんが向かってきた。こう書くとレゲエのおじさんのように見えるが、実際は汚さ的にホームレス風である。
 そのおっさんが私の目を引いたのは、おもむろに社会の窓が全開だったからだ。見た目の汚さとあいまって、私の心境としては、おろろろろ、といった感じである。
 そのおっさんとすれ違うとき、私は驚愕の光景を目にした。社会の窓はおろか、トランクスのボタンまで全開なのである。結果として、茶色いきのこが見えた。茶色いきのこ、魔法のきのこ。多分、吸引すればトリップできるんじゃないかと思う。幻覚だって見えると思う。見えてはいけない種類の幻覚。
 おっさんがそんな感じで堂々と池袋駅を闊歩する様子は、ちょっとひかえめなストリーキングといった風情である。公然わいせつともいえる。だが、あまり公然としていないようにも思える。一体、彼は、何がしたいのか。公然としないことによって法の目をくぐりぬけているのか。つまり知能犯なのか。
 そして彼は、法の網をくぐり抜けることによって、どこに到達しているのだろう。そこは、彼なりの桃源郷なのか。
 社会一般の概念に対して、あさっての方向にある桃源郷